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観る者に「気づき」と「勇気」を与える二時間――青年劇場『羽衣House』観賞記

 施設の管理責任者の「覚悟」が素晴らしい。
 セリフの中にさりげなく、しかし重く社会問題が語られるのが素晴らしい。
 劇の進行にシンクロしていくように設計された舞台と装飾とが素晴らしい。
 立場の違う人たちが、ひとつの目的に向かって力を合わせていくその過程が素晴らしい。
 そして何より、基底に流れるのが「人間賛歌」であることが素晴らしい。

 『羽衣House』は、「福島から離れた場所から福島のことを語る作品を」と依頼された劇作家・篠原久美子氏が、「手のひらに太陽の家」プロジェクトに着想を得て、福島原発から300kmほど離れた「羽衣House」なる施設で起こる出来事を描いた「喜劇」である。「喜劇」にかぎ括弧を打ったのは、形こそ「喜劇」なのだが、その手法を用いて描かれるものが、単なる「群像劇」を超えて、「いま、このとき、大人たちはどう『動く』必要があるのか」という大きな「問い」である、ということからである。

 舞台は福島原発の事故由来の強い放射線から逃れるために、子どもたちと一緒に避難する人たちのための民間施設。マジックショー&焼き肉パーティーをその夜に控え、前夜に準備した施設のパーティールーム(大きなLDK)が、何者かに荒らされたところから始まる。登場人物は施設の管理責任者とそのスタッフ、自然教室のインストラクター、ボランティアの若い女性と容疑者として捕らえられるその恋人、子どもを連れて避難してきた母親と離れて会社勤めするその夫、その日のゲストであるマジシャン(で絵本作家)、ほかに子や孫を連れてきている避難者、とさまざま。序盤から中盤にかけては、荒らされたパーティールームで、登場人物間の立場の違いと、そこから来る「壊された関係性」について、それぞれの事情が明かされていく。その中で、その立場の違いの由来となった社会の問題点や、個人の「選択」に内在する問題点が、ひとつひとつ紐解かれていく。しかし、ひとつひとつの問題がその場で解決することはない。施設の管理責任者は、あらゆる立場の人がいることを認め、それぞれの立場を尊重していく。

 青年劇場の舞台に「ネトウヨ」とか「DQN」などといった単語が出てくること自体想像していなかったが、そこに「差別」問題を絡めてきたり、闘うためにクリスチャンになった、という人のエピソードに、憲法や宗教の存在する意味を絡めてきたりと、背景となる社会問題への切り込み方も見事。避難していく子どもの近くで仕事を見つけるか、福島での看護職(正職員)を選ぶかで迷う避難者の話など、個人の「選択」に関して、必要に応じてフォローがはいるところには、原発事故以来被災者をしっかり見つめてきた作者の思いが感じられ好印象。ひとつ屋根の下、一緒に住むから家族なのだ、と妻子を連れ帰ろうとする夫に対して、「ここに来た子どもたちは、最初に遊ぶとき、まず『このはっぱ、さわっていい?』『このつち、へいき?』(※宣伝ポスターに書かれていることば)と聞くところからはじまる」という管理責任者のセリフは、、背景にある社会問題が生んだ「悲劇」と個人の「選択」に関する「葛藤」の象徴である。そして、意外な犯人がわかり、孫を連れてきた避難者の「過去」が判明すると――。

 「過去」は、起きてしまったことは、もう変えることができない。お互いの立場の違いも、最大限に尊重されるべきだ。その中で、「いま」、「ひとりひとり」が、「誰の立場を尊重」し、どのように「動く」べきなのか。ひとつの結論など出ようはずもない。それはおのおのの立場と、家族や周りにいる人たちの事情、そして尊重すべきもの、それらによって変わっていかなければならないから。でも、それぞれの立場を持つ者たちが、それぞれの結論を胸に、ひとつの目的に向かってそれぞれの「動き」を重ね合わせたときに何ができるのか、それがパーティールームの「復興」によって示され、誰もが羽ばたくことができるんだ、と謳う歌とともに、感動の終幕となる。2時間近く、途中休憩なしの舞台だが、まさに息をつく暇のない展開、そしてその終幕に向けて、涙を禁じ得ない人も多いことだろう。私もそのひとりであった。

 最後に、この舞台は、自らに向けられた問題について気づいていない人にはその気づきを、すでに気づいている人には「動く」ための勇気を、十二分に与えてくれる。ひとつの脚本(ほん)で、両方の効果を併せ持つ舞台は、そう見られるものではない。篠原久美子氏の脚本は、その緻密な構成力を思う存分発揮し、この効果を達成したものとして、賞賛に値する。ふじたあさやの演出も、その脚本の真意をしっかり汲み、出演する役者たちも、それぞれの立ち位置を理解し、精一杯の演技をすることで、その目的の達成に一役買っている。

東京新宿・紀伊國屋ホールにて21日まで。