《「ロールモデル」がいない》問題・父親編ーー牛乳石鹸 WEBムービー「与えるもの」篇 が訴えかけようとしたもの
ひとことで言うと、《「ロールモデル」がいない》問題を訴えかけようとしたのに、大きく二つの理由でそれがぶち壊しになってしまった、ということなんですよね。
ここからは、そういう話題に興味を持っている方だけがここまでいらしている、という想定で、書かせていただきます。
まあ、私にはすぐ下の解釈が一番ピンときたのですが、ここで終わってしまうと記事にならないので(残念)。
牛乳石鹸のCM、あれの得体の知れない「怖さ」は父子関係という方から出てくると思う。一人息子の誕生日なのに一かけらも嬉しそうじゃないんですよ。そして「厳しかった父」を思い出して憂鬱になってんの。深刻な愛着障害の事例じゃないかな、これ。虐待サバイバーという可能性すらあるのでは。
— 手塚空 (@aibery) 2017年8月15日
この主人公(父親)は、「愛着障害」云々を抜きにしてズバリいうと、
男性会社員・父親・夫としての「ワーク・ライフ・バランス」を実現する上での「ロールモデル」がいないので、自分がどうしたらいいのかわからない
人として描かれているんですね。それはリアルに多くの同じ立場の人たちの立ち位置であると考えられるわけです。女性の方でも、同様に《「ロールモデル」がいない》問題で困っている人がいまだに多くいるわけですが、男性も同じだよ、ということを訴えかけようとしたんだと思うんですね。しかし、そうしようとしたところ、致命的な失敗をいくつかしてしまったわけです。その中で一番大きいのはこれ。
牛乳石鹸の動画で一番嫌なのがさ、妻に「なんで飲んで来るかな」って言われてさ、会話せずにお風呂に逃げるじゃん。ちゃんとコミュニケーションしないのが、最悪。
— やちまろ@2016.12女児出産 (@ya_chi_maro) 2017年8月16日
石鹸で洗い流せば、それで家庭は平和ってこと??
夫婦のコミュニケーションの必要性を痛感する日々だからこそ、あれはない。
これは、私の経験から見ても本当にまずい。「メイキング画像を見たら子供との会話もあるのになぜあそこを使わなかった?」という反応もありますが、それを入れると「どうしたらいいかわからない父親」像がぼやけてしまうので、意図して入れなかった可能性が高いと思います。
その次にまずかったのはこれ。
話題になっている大阪の某石鹸会社のWeb CMですが……「父親の帰りを楽しみに待っている自分の子どもがいるのに、職場の人と飲みに行ってしまう」ような優先順位設定誤りを犯す人を「家族思いの優しい父親」というのは根本的に間違っているとしか。子どもが寝る時間も遅くなっているぞ。
— (元)レッシーぱぱ/石原隆行 (@ressii_papa) 2017年8月16日
もちろん、ここも「どうしたらいいかわからない」からそうなっているわけです。でも、「いつものゴミ出し*1はちゃんとやってるし、頼まれたケーキとプレゼントもちゃんと買ってきている*2し、何で怒られなきゃいけないんだろう?」という思いを「洗い流し」てから、ようやく妻に謝るわけです。「スマホの待受を家族写真にしている時点で十分に子ども思いだろう」という解釈も目にした気はしますが、女性側はそんなことでは騙されない。やはり、日頃の行動をしっかり見られて、採点されているわけですね。多分100点満点中、甘くて減点50点、人によっては90点ぐらい減点されてもおかしくない*3。しかも、ここが「ジェンダー・ステレオタイプ」に絡んでくるから厄介なところ。
私は、以前から「公的機関のCMは『ジェンダー・ステレオタイプが強調される』ものはダメ、私企業は自らの責任で」と言ってきたわけですが、昨今は宮城県に代表される公的機関のCMはもちろんのこと、私企業のCMでも『ジェンダー・ステレオタイプが強調される』ものは結局槍玉に上がる、というケースの何と多いことか。このCMもその一端になります。そして、このCMで批判される内容は、「会社と家庭とどちらを取るか、という命題に対して、大事なところで結局会社を取っちゃうのかい」ということになる。主人公の妻も「何で飲んでくるかな」のひとことに不満を(火力は抑えていますが)爆発させています。「平日にではなく休みの日に誕生日ホームパーティーをする」という解決策もあるわけです(このことを指摘されている方もおられましたね)が、そこも多分夫婦間の会話不足が間接的に悪い方に出ているのではないか、と推測されます。
その結果として、会話がない。笑顔がない。不気味だ。イコール「これはホラーだ」という解釈が大きく普及することになってしまった、ということだと思うんですね。肝心の《「ロールモデル」がいない》問題はどこへやら。私が確認できた範囲では唯一このツイートぐらいでしょうか。
自分が、いわゆる男性社会的なものに、嫌な目に遭わされてきたとか、それをうまく避けるためにすごく労力を払ってきたというのはわかるんだけども、男性は男性で、「自分の父親を、父親像として参考にできないことへの戸惑い」があるのって想像がつくし…。
— こべに (@kobeni) 2017年8月17日
では、《「ロールモデル」がいない中でどうやって「目指すべき父親像」をイメージしていくか》となると、答えが一つだけ、などということはありえないわけですから、これは周りの人と話し合ってひとりひとりがそれぞれの妥協点を見つけるしかないのです。職場では同僚や上司・部下、家庭では妻はもちろん、こどもとの会話も重要です。できれば職場や家庭以外のところに*4相談できる人がいるといいですよね。それこそSNSやネット上のコミュニティでもいい。オフ会できる人ならなおよし。そうやっていろいろな視点からみたものを組み合わせて、自分なりに「これならできる」無理のない範囲でバランスを取っていくしかないわけです。マニュアル? そんなものあろうはずが(略)
(追伸)私には、もう一つ話題になっているポスターの方がよほどホラーです……ここには出しませんが、まさか「クラッシャー上司」さんじゃないんでしょうね……。