久々に《舞台の華》になる榊原郁恵、受け止める渡辺徹――朗読劇『いまさらふたりで part.2 家庭内文通』観劇記

 《「渡辺徹 還暦&デビュー40周年」記念、「徹まつり」企画》として、東京・赤坂の草月ホールで一日(昼夜二回)限りで上演された『いまさらふたりで part.2 家庭内文通』。

 私は先週見に行った別の舞台(ひとつ前の記事が劇評です)関係の記事を調べていて偶然見つけた8月25日付けのこの記事 「明日を信じて - 表参道シナリオ日記」で"ちょっとゆるゆるしたい方"におすすめされていたことで知り(大感謝。たぶんシナリオライターさんの名前で注目されたのだと思います)、給料前でお金がないので「携帯電話料金合算払い」でチケットを購入し見に行きました。「徹まつり」ですが、もちろんお目当ては私のン十年来の「推し」である榊原郁恵さんです。

 (通常、劇評は敬称略で書く私ですが、いわゆる「推し」の素晴らしさに敬称略で文章をしたためることができないため、「さん」付けならびにですます調の文章になりますが、なにとぞご了承を)

 時間ギリギリに到着した私、すでに一鈴は鳴り終わっており、会場係の方に席まで案内していただきました。同じ列の方、ご迷惑をおかけ致しました。夜の部も会場は満席に近い状況。

 開演に先立って渡辺徹さん本人が榊原郁恵さんに突っ込まれながら注意事項など。「飲食はご遠慮ください」のあとにまさかの「(舞台上の役者に)餌を与えないでください。見境なく食べてしまう可能性があります」ここから爆笑スタート。

 さて、物語は夫のある行為(それがどんなものかは結局明かされずじまい、というのがツッコミどころのひとつ)が妻の逆鱗に触れた結果、夫婦がダイニングテーブル上の「ノート」でしか《会話》しなくなって3日、という状況からスタート。夫は妻から「怒っている理由がわからないのに謝るの?」などと意地悪く迫られては、それとは違う《事実》をあれこれ暴露し墓穴掘りまくり。そこに家を出て独立していた息子が突然割り込んできて――

 私は郁恵さんが3月に出演した『たぬきと狸とタヌキ』が個人的に「観劇後の印象最悪、完全に期待外れ」に終わり、ものすごくガッカリした(過去記事に劇評ならぬ感想があるのですがリンクはしません。熱演ではあった、ということは申し添えます)のですが、今回の演目はまさに「これよこれ!」と快哉を叫びたくなるものとなりました。これは1970-80年代女性アイドル4人による舞台『ヒロイン~女たちよ タフであれ!~』(劇評ならぬ観賞記は別ブログ"otak.ayan Part3"にあります)を観た10年前から思っていることで、彼女こそ(黒柳徹子女史をはじめとした先達の方々と比較してはいけませんが)演劇舞台上でのコメディエンヌとしての実力がもっと評価されるべきだし、そういう舞台にもっと取り組んで欲しい、と思っていた(※ちなみに筆者、「いまさらふたりで」のpart.1は「事前に情報が得られなかった」ため観ておりません)ので、今回の舞台が「一日限り」だった、ということが大変残念でならないのですよね。郁恵さん、怒りは怒りとしつつ、セリフに助けられてツッコミを入れまくり会場の笑いを誘う誘う。徹さんは受け&ボケ役に徹し、息子の渡辺裕太さんが出てきたときには両親ふたりが全力で受け止める、という温かさも。

 もちろんシリアスなストレートプレイ系の演目なら「文学座」の座員でもある渡辺徹さんの実力が圧倒するのでしょうが、コメディとなると東宝さんやドリフターズに鍛えられた榊原郁恵さんも負けていないかむしろ上回るくらいの経験値があり、その上で徹さんにしっかり受け止めてもらえている安心感からか、久々に《舞台の華》として輝いていたように思います。これぞ舞台上の郁恵さんらしさ。
 そしてもう一つ、どうしても触れておかなければならないのは、岡田惠和氏のシナリオ。あらかじめご一家に取材し、その上で書かれた脚本とのこと。豊富な「食べ物ネタ」をはじめ、夫婦ともに多忙で実際にノートでやりとりしていた時期があったことなどをうまく台本に組み込み、《ところどころに「リアル」もしっかり感じられる、でもフィクション》としてまとめた力量は素晴らしいものでした。またプロジェクションや音(演奏者にも拍手)をうまく使った鵜山仁氏の演出も笑いを盛り上げていました。

 最後にひとこと。終演後、郁恵さんの度重なる「寝入り端を襲う質問や確認の嵐」に困った、と徹さんが話されていましたが、これこそ郁恵さんの「役への没入」に必要なこと。そして実際に演技中なのにもかかわらず感極まって何かがこみ上げてしまう郁恵さん。今回の演目での成功は、そのような「夫婦の絆」によるところが大きかった、ということを確認できたのもまた嬉しかったですね。徹さん的には part.3 はもう金輪際イヤなのかも知れませんが、私からはぜひ part.3 をお願いしたいところです。


P.S. 帰り道のスターバックスで、そこまでの量が必要ないのにコーヒーを「徹サイズ」にしてしまいました……(ベンティとかグランデとかじゃないですよ)